仕事のアウトプット・ビジネスのアウトプット

2015/09/06

サラリーマンと起業家・経営者の大きな違いのひとつに、「アウトプット」に対する考え方がある。

それは、仕事のアウトプットと、ビジネスのアウトプットの違いと言ってもいい。

「ビジネス」という言葉は、事業者が物なりサービスなりを提供して、その対価としてお金を得る、という活動を指している。

こう書くと何の抑揚もないが、じっさいには、売れない・買われない・知られない・見向きもされない、というのがスタンダードだ。

この環境で、買われるようにするあらゆる努力が"ビジネス"であって、それ以外は"お仕事"にすぎないと僕は思う。

ビジネスと仕事のアウトプットの違い

たとえば、「イチローくん。1万円払うから、チラシを100枚作って駅前で配ってくれ。」という簡単な例を考える。

イチローくんはアイディアマンで、何を思ったか一面真っ黒に塗りつぶしただけのチラシを作って配りきる。

真っ黒な紙を受け取った人は何のことかさっぱり分からないから、当然ひとりも客は来ない。

このとき、イチローくんは1万円の仕事をしているが、ビジネスとしては回収ゼロ円。

式にすると、

【A】1万円 →【B】イチローくんのチラシ制作&配布 →【C】来客・売上

となる。

【B】が仕事のアウトプットで、【C】がビジネスのアウトプットだ。

仕事の結果は、ビジネスではインプットに過ぎない

この例では自明だが、実際のビジネスでは、

  • いろいろな仕事をすると、【A】給料と【B】仕事の活動の関係が複雑になる
  • いろいろな仕事をすると、【B】仕事の活動と【C】業績の関係が複雑になる

という2つの複雑化の力が働いて、【B】だけ、つまり「どれだけ忙しいか?」だけを測る人になる。

また、スタートアップの起業家も「自分は給料は後でいいや」ということで採算度外視する傾向がある。

気をつけていないと「おれたちワーカホリック!」症候群に陥る。

仕事はアウトプットではなく、“生産手段の投下"というインプットに過ぎないいことに注意。

I/O比を高める

I/O比を高める、すなわち少ないインプットで大きいアウトプットを得る、これが商売の基本。

大多数のビジネスマンは圧倒的にサラリーマンだから、仕事の量と給料しか見ていない。

だから、経営者には仕事を減らす努力がつねに欠かせない。

難しいのは、イチローくんの例のような失敗投資。

たとえば、先ほどの例で、紫色に塗りまくったショップの近所で、紫一色のチラシを配ったとしたら、労力は一切変わらないのに客足は増える可能性がある。

機会と危機は微妙な線だから、線引きを見極める眼力は本質的な課題だ。

顧客指向でなければビジネスじゃない

もう少し個人の観点で考えると、ビジネスと仕事を分けるのは、顧客をダイレクトに意識できているかどうかに尽きると思う。

物やサービスが買われるためには、まず最初に顧客が「買おう」と思わないと始まらない。

買おうと思わせる努力には2段階ある。

(1)顧客を知る、ということと、(2)サービスレベルを上げる、ということだ。

この2点をクリアするためには、自然と顧客指向にならざるを得ない。

「顧客を知る」は意識しないとできない

顧客を知ることはビジネスの基本だが、意外とできていない。

よく言われているように「どれだけ全力で走ってみても、目をつぶって走っていたら間違ったところに一早く到着するだけ」だ。

いかにハードワークをしてみたところで、それは単なる国力の無駄づかいに過ぎない。

ビジネスのゴールは顧客ニーズを満たすことだから、間違った地点にたどり着きたくないなら顧客ニーズの把握には当然貪欲になるべきだろう。

エクセレントカンパニーの実例として知られるP&Gは「顧客がボスである」という思想を強く持っていて、マーケティング活動の相当の割合を顧客理解に割いている。

「サービスレベルを上げる」ことに妥協はない

なんとか適切にニーズを把握できたとしても、そのニーズを満たせるサービスレベルを実現できるか、という点はまた別問題だ。

サービスレベルの基準もやっぱり顧客満足だが、重要なポイントは「顧客満足は絶対であって妥協はゆるされない」ということだ。

仕事ができる、または頭が良いと言われる類型の人の中には、仕事を自分が解ける問題にすり変える人が相当多い。

“仕事"としてはそれで通用してしまっているケースは多い。 ただ、結局のところそれでは顧客満足という絶対基準に回答していない。

この点を妥協すると、買われない・見向きもされない、という原点に帰っていくし、一度買われたとしてもまた飽きられる。

実行リスクにも注意が必要

失敗投資は不確実性の問題。当たるか外れるかをあらかじめ知るというわけにはいかない。

一方、「やり切れない。終わらない」というリスクの問題もある。

ビジネスでは、実行リスクは制御する対象で、排除したり避けたりはできないい。

他の人に実行リスクがありうまくできないことを、自分たちがうまくやれるからリターンがある。

仕事はやっているけど、どの仕事も98%まで到達していて完遂はしていない、ということはすごくよくある。

98%の仕事は往々にしてビジネスのインプットにならないから、成果がゼロになりがちだ。

やるべきことが遅延しているのも、形を変えて実行リスクが顕在化した状態だ。

あるタイミングで欲しかったリターンが得られる確率がゼロになるからだ。

起業では「先送り」がひどいダメージになることがよくある。

ビジネスのプロセスはつながっている鎖のようなものだから、一つの遅延が玉突き事故のように次々と遅延を呼ぶことが多い。

「チャンスの女神には前髪しかない」とはこのことだ。

先送りする人に成功者はいない。

結果の読みで撤退の眼力を鍛える

「ちっ、外したか」というときでも、従業員には「よくやってくれた」と言わなきゃいけない。

または「これだけ頑張ってくれたのに、スマン」という心境かもしれないが大差ない。

起業は、何が当たるか分からないから難しい。

手堅くできることと言えば、失敗に早く気付いて撤退することくらいだ。

“負け戦"を続けてはいけない。

そのためには、失敗に気付けるように動くことも必要。

hpの創業者は「測れないものは制御できない」というようなことを言っている。

かなり細かいレベルの仕事でも「これで客が日に10人くらい来るはずだ」といった読みをあらかじめ持っておくことで眼力を鍛えられる。

一番危険なのは、たくさん仕事をすることに酔ってしまって、ファジーな失敗を繰り返すことだ。

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