優れたビジネスマンの条件として、多面的に物事を見る柔軟な頭の使い方が欠かせないと思う。
常識とは違った物の見方がビジネス機会を生むし、逆に思い込みや一面的な見方は予想外のトラブルを生み出す。
自分が多少なりとも多面的にとらえる能力を身につけられたのは、まず法学部の学生時代に得た着眼点が基礎になっているように思う。
法的思考に求められる他者視点
法律というと、一般的には「お堅い」ものの代表ととらえられているのではないだろうか。
しかし、実際には多くの法律家はスーパーフレキシブルと言える。
なぜそうなのかというと、ひとつには法的思考では必ず相手の立場からも考え尽くそうとするからだ。
たとえば裁判所で原告と被告に分かれて言い争う場面は、法律の運用の場としてイメージしやすいだろう。
自分が被告の弁護士になったとすると、被告を弁護して言い負けないために原告側の主張をなるべく想定し切ることが求められる。
それは将棋指しや碁打ちで相手の手を読むことと似ている。
要するに 人間が2人もいればそれだけで複雑な社会関係が発生し、一面的なものの見方が全く通用しなくなる。
法的解釈:条文とケースのあいだ
もう1点、法的思考に多面性が求められる要因として、「解釈が問われる」という点がある。
法律屋が杓子定規なイメージを持たれる要因として、六法の膨大な条文のイメージがあると思う。
あの分厚い規定から何事かを引っ張り出して白黒つけるのが弁護士だと思っている人は意外に多そうだ。
しかし、実際には法律の勉強の中心テーマは条文の暗記ではない。
六法に書いてあることと現実は同じでないため「どのように解釈するか」が法律の勉強のテーマとなる。
解釈の余地が大きいということは、見る人によって諸説あるということだ。
有力な通説だけでなく、無視できない少数説が常について回る。
どのような解釈が有効かはまさにケースバイケース だ。
ビジネスの現場でも、仮説を立てて実際のケースに当てはまるものを探すことが多い。
抽象的な仮説やMBA的なメソドロジーを実際の現場に応用する際にまさに「解釈」の能力が生きる。
また、ひとつの説にとらわれない考え方は、前提を問い直すゼロベース思考に通じる。
お堅く見える考え方が逆に柔軟性を生んでいる
法的な物の見方で着目したいのは、最終的に想像力が強化されるとしても、学習過程では特に空想する練習などは行っていない点だ。
他者視点や解釈といった能力は、条文やケースを大量に見ていく中で養われる。
はたから見ると詰め込み以外の何者でもないかもしれないが、喧嘩両成敗のようなケースを多く見ていると賛否両論の考え方を漏れなく追っていける。
「法学部はつぶしが利く」と言われるのは、 反論をあらかじめ想定していたり、原理原則を実態に合わせて理解する柔らかいアタマ を身につけられるからではないかと思う。
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