知識産業で頑張りたい人のための成長法

2016/01/01

下り坂の日本が今後どのように頑張るか?というテーマについては、知識産業のまあまあ先端の方を開拓していくほかないと思う。

国際経済の商流からはみ出してしまえばジリ貧は確定するし、今の国際分業を考えると、いまや農業・工業には日本の比較優位性がない。

何しろ市場プレーヤーは増えていて、世界人口60億のうち26億人超を占める中国+インドが参入してきたのだから、体で稼ぐ分野は厳しくて、頭で稼ぐ知識産業で生き残っていく潮流なのではないか。

知識産業の集団戦に勝ちパターンがない

頭で稼ぐ産業の難しさは、なんといっても具体的な勝ちパターンが不明なことだ。 金融や医薬開発・半導体・ソフトウェアベンダーなどの成功例を見ると、賢い人材を高密度にかき集める手法は成立しているが、中産階級の労働者をたくさん抱える構造にはなっていない。

ただ逆に、このことをダーウィンの進化論的に眺めると、かつては賢い人も普通の人も混在しているような"普通な"会社も存在していて、競争の中で淘汰されていったのかもしれない。

となると、知識産業で活躍する知識労働者になるためには、相当高い賢さを獲得している必要アリということかもしれない。(個人的には、そういうことなんじゃないかと思っている)

つい最近まで、日本人の労働特性は他国に比べて「知的水準が高く」「勤勉」だからまだ頑張れば勝てるんだ、という論調があった。

ただ、武田薬品工業など競争力の強い製薬メーカーでさえ、日本人労働者が賢くて勤勉なので他国を抑えて世界シェアを獲りまくっているということはない。

競争に有利で利ザヤを生む経営資源はいずれ獲り尽くされるから、マスとしての日本人労働者は知識産業を支える経営資源としては現状弱いのだと思う。

これらのことから、知識産業に集団戦で勝つための方法論は不明、ということと、大半のサラリーマンは知識産業を勝ち抜くための水準をクリアしていない、という仮説は相当有力なのではないかと思う。

「トレードオフ」が知識創造のコア能力

知識産業の職種としては、エンジニア・デザイナー・医師・弁護士・コンサルタント・経営者・棋士など専門分野ごとに多様なものがあるが、物の考え方はじつは共通する能力なのではないかと思っている。

このような職種の中で、経営者については世代交代の必然性が高いため、育成・成長の方法論について書かれた本がある。

なかでも注目すべきなのは『CEOを育てる』(ラム=チャラン)だろう。米国は世界の中でも突出して経営チームのレベルが高く、共和制的な企業統治をコンプリートしている企業が多い。ラム=チャランは米国企業の取締役としての経験を刊行していて、ほかにない知見が得られる。

『CEOを育てる』では、CEOに求められる資質が順次挙げられているが、おそらくもっとも特徴的な資質は「統合する力」だろう。 限られた資源の中で次の一手を決めるためには分析する力だけでは足りず、何かを捨てて何かをとる"トレードオフ"が重要になる。

これはおそらく他の職種でもハイレベルな仕事をするためのコア能力になっていると思う。知識労働は最終的に現実のサービスや製品として形にする必要があるため、自分たちの置かれた制約条件を的確に消化することが欠かせない。

知性の成長にはバイアスの克服が必要

CEOの育成については、まず早期選抜から始まるとラム=チャランは主張している。CEOが務まるかどうかの素質は20代にはある程度固まっているのだという。 米国大企業のCEOはもっとも制約条件が厳しいため『CEOを育てる』の育成論は一般化しづらい面がある。

トレードオフ能力に類似する知性の発達論としては『なぜ人と組織は変われないのか ハーバード流自己変革の理論と実践』(ロバート=キーガン/リサ=ラスコウ=レイヒー)が良い。

人の知性のレベルには高い順に「自己変容型」「自己主導型」「環境順応型」の3段階があり、知性が高いと仕事もできる、自己変容型に到達している人は1%未満、など、ラム=チャランの見方と整合的な点も多い。

この本の要点は、潜在的に恐れていることが人の知性を低く抑える要因となっている、ということだ。 また、この潜在的な恐怖を直視して前提の思い込みを解消することで知性を向上する実用的なワークを提供している。

知識労働者としての進化は自助努力からはじまる

知識産業の人材育成については、「馬を水飲み場につれていくことはできるが、水を飲ませることはできない」という故事のとおりだと実感している。

教える努力以上に学ぶ側の努力がないと、情報を伝達しても断片的にしか受け取れない。単に分からない部分がある、ということならまだ良いのだが、バイアスが強いと都合の良いところだけを拾い集めて誤解が生じるので厄介だ。

知識労働者として成功するためには、個別分野の知識を習得するよりも先行気味に知性レベルを向上することが重要だと思う。『なぜ人と組織は変われないのか』が説くようなワークは有効だろう。

現実問題としてビジネスマンの偏見のレベルがまちまちである以上、教える側がペースを制御することは難しく、自助努力が欠かせない。

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