就職活動や新卒採用は、当事者の関心はとても高い一方、ほとんどの人には無関係な出来事だ。
そのため、“自分の就活"に興味はあるものの、就職活動という一般的な現象に関心を持つ人は少なく、全体像を把握する人はさらに少ない。
就職活動では何が起こっているのだろうか?
情報の非対称性がうむ市場の失敗
労働市場は「情報の非対称性」が強く働く市場として知られている。
情報の非対称性というのは、商品の良し悪しの情報を一方の当事者しか知らないため、たとえば相手が買おうと思ってもそれが良品か粗悪品かを見分けられない、という現象を指す。
企業から見たときに、労働力を入手する市場には、新卒採用のほか中途採用・パート採用・派遣受け入れなど多彩な手段がある。
この中で新卒採用がもっとも情報の非対称性が強く働く。
日本は解雇に対する規制が強く、正社員採用をすると雇用期間を長く見なければならない。意外にも新卒社員は高級品なのだ。
この点、パート・派遣は短期雇用が前提のため失敗リスクが小さい。また、取引回数が増えると労働者の質に関する情報も増えるので、情報の非対称性を下げる。
これらの要因が重なって、雇用の非正規雇用化が進んでいる。
僕が営業活動をしていて実感するのは、新卒採用に対する企業需要は総じて弱いということだ。もちろん一部の企業は新卒採用意欲は高いが、そういった企業の数が少ない。
もう少しフラットに見れば、日本の労働者の能力水準は高いのだから、おおざっぱに新卒を積極採用して良いという見方もできる。
企業がそういう考え方になりにくいのは、やはり新卒採用に関する情報流通が圧倒的に不足しているからだと思う。
総じて「派遣の方がてっとり早いし、新卒はよく分からないから採らなくていいや」ということだと、これは"市場の失敗"なのではないかと思う。
(実はほかにも新卒市場で市場の失敗が起きている傍証は無数にある)
学生に求められる情報提供
情報の非対称性を前提におくと、就職活動に必要なことがシンプルに見えてくる。
企業が採用するにあたり、応募者の情報がカギになることは説明したとおり。新卒採用の場合は過去の職歴がないので、情報提供は自己表現のみとなる。
口ベタだろうが何だろうが、自分を説明できないという状態では内定は著しくとりづらい。
ただし、表面的に相手に合わせて演出するような"えせコミュニケーション力"は避けた方が良い。
これも情報の非対称性の観点で研究されていることだが、嘘つきが有利なゲームになりやすいことが知られているため、適性検査などで排除される。
(嘘つきばかりの市場の詳細は、 レモン市場参照)
内定をとりたい意識が先行すると、企業の求める情報に沿いたくなるのだろうが、それは難しい。
企業がどのような人材を採用したいか、という基準は千差万別で、配属される職種に必要な資質から決まっている。どんなに入りたい会社があったとしても配属後に脱落するのではお互い不幸だから、適性の合わない人は選考で落ちる。
情報収集も重要
選考の観点では、学生からの情報提供が重要な一方、職選びの観点では、企業から学生への情報提供もまた圧倒的に不足している。
学生が十分に自己表現できたとしても、白黒はっきりつくというだけで、何でもかんでも内定がとれるということにはならない。
適性に合う企業や職種にたどりついて初めてうまく行くわけだが、適職を事前に見分けることは非常に難しい。
ある会社の仕事がどのようなものなのかは、その会社の従業員にしか分からない。ここにもまた情報の非対称性が働いている。
現状では、職に関する客観情報は十分手に入らないので、実地で聞き回るくらいしか有効な策がない。
職種・業種ごとの特性の偏りはあるから、複数の職種・業種をカバーできるように活動することで致命的な失敗をある程度防げるだろう。
学生にとっては意外かもしれないが、たとえば理系であっても幅広い職種の募集があり「理系の営業がぜひ欲しい」という業種はあるし、その切望度も企業によって大きく異なる。
情報収集をひと通りできてからようやく職選びなのだと思う。
中立な情報流通者がいた方が良い
「情報の非対称性」が、就職活動をする学生にどのようなゲームルールを設定しているのかを表面的に眺めてきた。
おそらく市場の失敗はすでに起こっていて、解決は一筋縄では行かない。企業も学生も相手の良し悪しを評価し切れずにいるため、新卒採用支援サービスも成立しづらい。
おおざっぱな解決のアプローチとしては、中立な情報流通者がいることで有効な判断材料が供給され、企業も学生も相手を評価しやすくなる、ということなのだと考えている。
いまサービスとして提供できていることとしては、学生がIrootsに登録するとコンサルタントが中立的な観点からアドバイスする、という活動がある。
全体のビジネスとしては相当改善すべきことは多いが、もともと学生が考えていなかった分野で内定が決まって満足を創出できた事例は日々増えてきている。