ここ半年ほど自社のシステム構築を細々とやってきたのが、ようやく一段落した。
着手前には「中小企業はそこまでシステム化しなくてもええやろ」と思っていたので「Excelでいきますか!」というノリだった。
しかし、なりゆきで割としっかり構築してみた今となっては「ITは不可欠」という印象に切り替わった。
中小企業、ベンチャーがIT化しない理由
ビジネスそのものを管理する情報システムのことを、ERPと言ったり基幹システムと言ったりする。
いわゆるIT産業では、大企業向けのERP構築が主役な一方、中小企業のIT化は「手つかず」と言われて久しい。
2011年のTech Target Japan調査 の例では、年商500億未満の企業の70%超がERPナシとなっている。
中小企業がIT導入できない理由は「予算が出せない」という点に尽きると思う。
とくにERPは、機械に例えれば据付・調整にあたるアフターサポートがあって初めて使えるため、割高に見えがちだ。
企業の数だけERP構築があるようなもので、Jazzではないが名演はあっても名曲はない。
それでも中小企業にITが必要な理由
ERPを導入しづらい理由はいくらでもある。
それでも、経営者のやりたいビジネスはITがあった方が断然実現しやすいと思う。
ERPがない環境では、様々な仕事を無数のExcel表やメール、紙の台帳の組み合わせで管理することになる。
この方式だと、仕事の複雑さが上がると早々に見通しが悪くなることは、やったことがある人ならすぐ分かる。
しかも、あちこちで"オレ流"の仕事が乱立するから属人化が進み、何かあったとき他の人がカバーできない。
そして起こるべくして問題は起こり、事態の収拾に時間をとられがちとなる。
つまり、ERP的なITの価値を経営の観点から評価したとき、一番のメリットは"実行リスクの低減"だと思う。
言い換えると、業務タスクを実行しやすくしたり、実行できていないことに気付いて直しやすくできる点が良い。
実行リスクを多く抱える企業は、どんなに人員を抱えていようとも、無為に資源を空費することになる。
企業は思ったように行動できない
信じられない話かもしれないが、ビジネスでは思ったように行動できる人はほとんどいない。
やろうと思ったことをやり切らずに終わる例がいかに多いことか。
これはマネジメント能力不足から起こる。
マネジメント力とは、達成したい目標を実行可能なタスクの組み合わせにブレークダウンし、その実行計画を現実に合わせて修正しながら消化していく能力を指す。
タスクの足し算にうまく分解できないケースと、現実にフィットする修正ができないケース、いずれもミドルマネジメントレベルの実行リスクの典型例だろう。
また、組織的なマネジメント力を得るには、コミュニケーション能力も必要となるため、企業が目標達成のために実行し切るのは案外難しい。
実行マネジメントをガイドするIT
ITが実行リスクを低減できるのは、あらかじめマネジメント力を持った少数の人が仕事の流れを定義しておけるからだ。
達成すべき目標をマイルストーンに分割することで、個々のメンバーが実行しやすくなるし、進捗の可視化もすすむ。
マネジメント力はプロセスの複雑さに比例して求められるレベルが上がっていくので、仕事が分割されれば若手でも活躍できる機会が増える。
リスク低減効果はモデリングしだい
注意すべきなのは、ITを導入すれば必ずリスク低減の効果が得られるというわけではないことだ。
テクノロジーの方はここ10年ほどでコモディティ化が進んで、導入自体の失敗リスクはかなり下がった。
一方で仕事の流れを決める要件定義フェーズでは、ビジネスモデルを適切に選択しなくてはならない。 ここはビジネスそのものなので簡略化のしようがない。
簡単にモデルを作れるとすれば、それは差別化できていないということだから、収益性に課題を抱えることになるだろう。
ITが実現すべきこと
ITは、正確な情報を社内流通することで組織運営、チームワークを実現するインフラだ。
ビジネスに適したITを導入するためには、以下のような要件を満たす必要がある。
- データが1ヶ所に集まっていること
- 最新の実行状況が把握できること
- 各担当者がタスクを実行する際に参照・更新できること。他担当者のタスクで中断されないこと
- 必要な伝票類が簡単に作成できること
- ビジネス実行上の不備を把握・通知できること
こういった要件を満たそうとすると、データを集中処理できるシステムが必要になる。
クライアント・サーバーモデルやクラウド、SaaSが有力候補になるだろう。
Officeソフトは原則NGだが、SkydriveやGoogleドライブならオンライン共有機能が徹底しているので、場合によっては使えることもある。
IT投資は経営判断
今回、ITインフラの整備は経営の一部だと実感した。
トップダウンで進めないといつまでも導入することにならない。
導入ハードルが高いためそもそも施策の選択肢に挙がりづらいし、横断的なタスク効率化のインフラ整備という発想もボトムアップでは出てこない。
自然には起こらないことに必要性を見出してリードするのが経営者の役割だろう。
やってみるとひたすら地味な作業でめいってきたりもするが、隅っこの方で兵站を粛々と整備するのもまた戦だと思う。
photo by Ishrona